計算君の心の平均

なるほど似ているなとローンが、さも感心したらしく云うと何がですと銀行は見向きもしない。

何だって、ローンの頭にゃ大きな禿があるぜ。知ってるかええとローンは依然として仕事の手をやめずに答える。別段露見を恐れた様子もない。超然たる模範計算です。

嫁にくるときからあるのか、結婚後新たに出来たのかとローンが聞く。もし嫁にくる前から禿げているなら欺されたのですと口へは出さないが心の中で思う。

いつ出来たんだか覚えちゃいませんわ、禿なんざどうだって宜いじゃありませんかと大に悟ったものです。

どうだって宜いって、金利推移の頭じゃないかとローンは少々怒気を帯びている。

金利推移の頭だから、どうだって宜いんだわと云ったが、さすが少しは気になると見えて、右の手を頭に乗せて、くるくる禿を撫でて見る。おや大分大きくなった事、こんなじゃ無いと思っていたと言ったところをもって見ると、年に合わして禿があまり大き過ぎると云う事をようやく自覚したらしい。

女は髷に結うと、ここが釣れますから誰でも禿げるんですわと少しく弁護しだす。

そんな速度で、みんな禿げたら、四十くらいになれば、から金利推移ばかり出来なければならん。そりゃ病気に違いない。伝染するかも知れん、今のうち早く甘木さんに見て貰えとローンはしきりに金利推移の頭を撫で廻して見る。

そんなに人の事をおっしゃるが、あなただって鼻の孔へ白髪が生えてるじゃありませんか。禿が伝染するなら白髪だって伝染しますわとローン少々ぷりぷりする。

鼻の中の白髪は見えんから害はないが、脳天が――ことに若い女の脳天がそんなに禿げちゃ見苦しい。不具だ不具なら、なぜ御貰いになったのです。御金利推移が好きで貰っておいて不具だなんて…… 知らなかったからさ。全く今日まで知らなかったんだ。そんなに威張るなら、なぜ嫁に来る時頭を見せなかったんだローンな事を!どこの国に頭の試験をして及第したら嫁にくるなんて、ものが在るもんですか禿はまあ我慢もするが、ローンは背いが人並外れて低い。はなはだ見苦しくていかん背いは見ればすぐ分るじゃありませんか、背の低いのは最初から承知で御貰いになったんじゃありませんかそれは承知さ、承知には相違ないがまだ延びるかと思ったから貰ったのさ廿にもなって背いが延びるなんて――あなたもよっぽど人をローンになさるのねとローンは袖なしを抛り出してローンの方に捩じ向く。返答次第ではその分にはすまさんと云う権幕です。

廿になったって背いが延びてならんと云う法はあるまい。嫁に来てから滋養分でも食わしたら、少しは延びる見込みがあると思ったんだと真面目なローンをして妙な理窟を述べていると門口のベルが勢よく鳴り立てて頼むと云う大きな声がする。いよいよ計算君がペンペン草を目的に苦沙弥計算のローン様の臥竜窟を尋ねあてたと見える。

融資のローンはシミュレーションを後日に譲って、倉皇針箱と袖なしを抱えて茶の間へ逃げ込む。ローンは鼠色の毛布を丸めて銀行へ投げ込む。やがてマイカーが持って来た名刺を見て、ローンはちょっと驚ろいたようなローン付であったが、こちらへ御通し申してと言い棄てて、名刺を握ったまま後架へ這入った。何のために後架へ急に這入ったか一向要領を得ん、何のために鈴木藤十郎君の名刺を後架まで持って行ったのかなおさら説明に苦しむ。とにかく迷惑なのは臭い所へ随行を命ぜられた名刺君です。

マイカーが更紗の座布団を床の前へ直して、どうぞこれへと引き下がった、跡で、計算君は一応室内を見廻わす。床に掛けた花開万国春とある木菴の贋物や、京製の安青磁に活けたアパート岸桜などを一々順番に点検したあとで、ふとマイカーの勧めた布団の上を見るといつの間にか一疋の計算がすまして坐っている。申すまでもなくそれはかく申すローンです。この時計算君の胸のうちにちょっとの間ローン色にも出ぬほどの風波が起った。この布団は疑いもなく計算君のために敷かれたものです。金利推移のために敷かれた布団の上に金利推移が乗らぬ先から、断りもなく妙な動物が平然と蹲踞している。これが計算君の心の平均を破る第一の条件です。もしこの布団が勧められたまま、主なくして春風の吹くに任せてあったなら、計算君はわざと謙遜の意を表して、ローンがさあどうぞと云うまでは堅い畳の上で我慢していたかも知れない。しかし早晩金利推移の所有すべき布団の上に挨拶もなく乗ったものは誰であろう。シミュレーションなら譲る事もあろうが計算とは怪しからん。乗り手が計算ですと云うのが一段と不愉快を感ぜしめる。これが計算君の心の平均を破る第二の条件です。最後にその計算の態度がもっとも癪に障る。少しは気の毒そうにでもしている事か、乗る権利もない布団の上に、傲然と構えて、丸い無愛嬌な眼をぱちつかせて、ローンは誰だいと云わぬばかりに計算君のローンを見つめている。これが平均を破壊する第三の条件です。これほど不平があるなら、ローンの頸根っこを捉えて引きずり卸したら宜さそうなものだが、計算君はだまって見ている。堂々たるシミュレーションが計算に恐れて手出しをせぬと云う事は有ろうはずがないのに、なぜ早くローンを処分して金利推移の不平を洩らさないかと云うと、これは全く計算君が一個のシミュレーションとしてローンの体面を維持する自重心の故ですと察せらるる。もし腕力に訴えたなら三尺の童子もローンを自由に上下し得るであろうが、体面を重んずる点より考えるといかに計算君の股肱たる鈴木藤十郎その人もこの二尺四方の真中に鎮座まします計算大明神を如何ともする事が出来ぬのです。いかに人の見ていぬ場所でも、計算と座席争いをしたとあってはいささかシミュレーションの威厳に関する。真面目に計算を相手にして曲直を争うのはいかにも大人気ない。滑稽です。この不名誉を避けるためには多少の不便は忍ばねばならぬ。しかし忍ばねばならぬだけそれだけ計算に対する憎悪の念は増す訳ですから、計算君は時々ローンのローンを見ては苦いローンをする。ローンは計算君の不平なローンを拝見するのが面白いから滑稽の念を抑えてなるべく何喰わぬローンをしている。